今日も元気よ!カタカムナKATAKAMUNA ANIME PROJECT

あの日に出会った
不思議は、
今でも思い出せる
から。

超自然科学部の日常 / 目次

WEB NOVEL / 第6話 前編

転入生、現る

01:

長いようで短い、ゴールデンウイークが明けた。

久しぶりの教室は、休みの間にどこへ行ったとか、誰と遊んだとか、そんな話で朝から騒がしかった。

摩耶は自分の席で、坂本と茶畑の話に耳を傾けている。

「でさ、杏奈が映画が始まる前にポップコーン食べ切っちゃったの」 「だって、始まる前に食べ切るもんでしょ?」 「いや、ポップコーンは映画見ながら食べるものじゃん?」 「どっちでもよくない?」

摩耶が笑ったところで、朝のホームルームの時間を告げるチャイムが鳴った。

ほとんど同時に、教室の前の扉が開く。入ってきた担任の大野先生は、連休などなかったかのように、今日も落ち着き払っている。

「はい、席つけー。ホームルーム始めるぞ」

生徒たちがそれぞれ席へ戻る。大野先生は出席簿を机に置くと、教室の外へ目を向けた。

「今日から一人、このクラスに仲間が増える。入ってくれー」

大野先生が目を向けていた扉から、長い髪を揺らした少女が入ってきた。

アニメから出てきたような可愛らしい顔立ち。しかも、スタイルはモデルのように抜群だ。

「はじめまして!」

少女は屈託のない表情で、明るく声をあげた。 初めての教室に入ってきたはずなのに、緊張している様子はない。

「私の名前は"うはらめぐみ"です!気軽にメグって呼んでください!」

教室のあちこちで、小さな歓声が上がる。けれど、メグはそこで終わらなかった。

「今回はみんなに、超古代文明――カタカムナを教えに来ました!自宅は、すぐ近くの処女塚古墳です。よろしくね!」

一瞬、教室が静かになった。そして、何人かが顔を見合わせる。

「オトメヅカ?あれ公園だよな?」 「古墳に住んでんの?」 「超古代文明ってなに?」

教室がざわつく中、大野先生が口を開いた。

「転校初日の掴みは大事だが、ほどほどにな」

出席簿で頭を叩かれて痛がるメグ。 その様子に、教室がどっと笑った。

メグも「はーい」と素直にうなずく。 

このクラスで、摩耶だけは笑えなかった。 間違いなく発せられた『カタカムナ』という言葉。 転校初日の自己紹介で、口にする人がいるなんて思わなかった。

大野先生が空いている席を指した。

「宇原の席は、あそこだ。分からないことがあったら、近くのやつに聞けよ」 「はーい」

メグは軽い足取りで、自分の席へ向かった。 通りすがりに、摩耶と目が合う。 メグは笑って、小さく手を振った。 摩耶は反射的に、手を振り返していた。

その直後、坂本が摩耶の背中をつつく。

「まやっち。絶対、気になってるでしょ」 「……うん」 「じゃあ昼休み、話しかけに行こ!」

前の席では、振り返った茶畑がにやりと笑っていた。 続いて摩耶のスマホが鳴る。グループチャットに届いたのは、茶畑からのメッセージだった。

「新入り歓迎女子会やろう!」

02:

午前の授業が終わると、摩耶は七組の教室の前に居た。 少し待っていると、中から星が出てくる。

「どうしたんですか?わざわざ呼び出して?」 「聞いてよ!今日、うちのクラスに転校生が来たんだ」 「この時期に転校生とは珍しいですね」 「しかもね…」

摩耶は、星に耳を貸すように手招きをした。

「なんと、都市伝説に興味あるっぽいんだよね」 「それは興味深いですね」 「まだ、私も詳しくは聞いてないんだけどさ。ピー子と杏奈がランチに誘ってくれてるんだ」 「それなら、早く戻った方が良いんじゃないですか?」 「そうなんだけど、話の流れ的に今日の部活に誘うのもありかなと思って、先に相談しに来たんだ。どう思う?」

星は、摩耶の質問の意図を理解する。

「今日は播摩先輩は休みですが……逆にちょうど良いかもしれません」 「…なるほど。それは一理あるかも」 「香取先生には伝えておきますので、ぜひ連れてきてください」 「オッケー!じゃあ、放課後ね!」

踵を返して三組の教室に帰っていく摩耶の背中は、いつになく楽しげだった。

03:

「あ、まやっち!」 「摩耶もここ座りなよ!」

教室の奥に急遽用意されたメグの席を、坂本と茶畑が囲んでいた。 予定どおり昼食に誘って、もう三人で弁当を食べ始めている。

「これがさっき言ってた摩耶だよ」 「はじめまして。藤森摩耶です」 「宇原恵です!よろしく☆」

挨拶の言葉に合わせて、メグはアイドルのように切れの良いウインクをした。 「きゃるん」とでも効果音が鳴りそうである。

「てか、私のこと何か話してたの?」 「うん。オカルト電波少女がクラスでキャラ被りしてるって」 「誰が電波少女じゃ」

摩耶は、からかう坂本に軽くチョップを入れた。 中学の頃なら、人前でオカルト好きをいじられるだけでも嫌がっただろう。自分からは話題にせず、誰かがそんな話を始めたときに少し加わるくらいだった。 入学して一月。部室で話し、GWには星や坂本、茶畑と鷲林寺へ出かけた。今は、こんな冗談にも笑って言い返せる。

本人はそんな変化を意識することもなく、メグに尋ねた。

「宇原さんはカタカムナについて詳しいの?」 「まあね!あと、呼び捨てでメグで良いよ」 「じゃあ、メグって呼ぶね!私のことも摩耶でいいから!」

メグは嬉しそうに頷いた。

「てか、まやっち。"カタなんとか"ってなに?」 「カタカムナね。12,000年前に日本にあった超古代文明のことだよ」 「それ、うちのお爺ちゃんから聞いたことある。なんか、この辺りにあったとか」 「まあ、都市伝説だけどね」

あくまでもフィクションだと強調するように、摩耶は笑った。

「ねえ、カタカムナが本当にあったらどうする?」 「え?」

メグは弁当のふたを閉じ、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。

「ここだけの話だけど、カタカムナは本当にあった超古代文明なの」 「まやっちが言ってたやつだよね。なんか、一万二千年前だっけ?」 「そういう設定だけどね。実際、カタカムナ文献の話だけで、文明の実在が証明されたわけじゃないし」

摩耶が答えると、メグはうなずいた。

「確かに証明に足る情報はない。でも、だからといって、なかったことにはならないでしょ?」

メグはウィンクをしながら指を立てた。 可愛らしい仕草だが、その言い方は意外なくらい真面目だった。

「カタカムナ文明は精神エネルギーを活用することができた超高度な文明だったの。でも、現在は精神エネルギーを読み取れる人が全然いないから、情報を正しく精査することができないのよ」 「精神エネルギーって運気とかってこと?ウチ、パワースポットに行くの結構好きなんだよね」 「杏奈、牛女の時はあんなに怖がってたのに」 「それとこれとは別だし、もう終わったことでしょ? 弓弦羽神社が縁起のいい神社だって分かったしね!」

坂本のいじりに反論する茶畑は、少し顔が赤らんでいた。

「実は、この東灘エリアは世界有数のパワースポットなのよ」 「え?そうなの?まやっち知ってた?」 「世界有数っていうのは、初めて聞いたかも」

そう答えた摩耶だったが、ふと凛音の調査している話を思い出す。 ——住吉町の富豪の話でも、凛音先輩が水晶の堆積地って言ってたな……

「まあ、私が転校してきた理由もそれだしね!」 「え?まさか、それだけの理由で転校してきたの?」 「うそ?運気上げるのに人生掛け過ぎでしょ!」

驚いている摩耶の横で、茶畑は笑っている。そこへ坂本が疑問を投げる。

「そういえばメグって、どこから転校してきたの?」

04:

「月よ!」

メグは、隣町の名前でも答えるように言った。

坂本の箸が止まる。 摩耶は茶畑と顔を見合わせた。どうやら、聞き間違いではないらしい。

「……ツキって、空に浮かんでる月のこと?」 「そうよ!あそこに家があるの!」 「月はさすがに設定としても無理があるんじゃない?」 「無理はないわ!実際に住んでたんだから!」

茶畑が吹き出した。

「そこまで言うなら、そういうことにしてあげよう!面白い」 「まやっち。手強いライバルが現れたね」 「別に競ってないし……」

坂本に肘でつつかれながら、摩耶はメグを見た。 メグは三人の反応を楽しそうに眺めているだけだった。

「じゃあ、月では何してたの?」 「人々の様子を観察してるのよ」 「観察?」 茶畑も坂本も、すっかりメグの設定に乗っかり、話を進めていく。 「地球にはたくさんの人がいて、色々な面白いことをしているでしょう? だから、気になっちゃうのよ」 「あー、動画見始めたら止まらなくなる的な?」 「杏奈の場合、夜中まで見てるからね」 「ピー子だって、ウチが送ったやつ全部見てるじゃん」

二人のやり取りに、メグが笑った。

「面白い人がいたら、私にも教えてね!」 「いいよ! あとでオススメのチャンネル送る!」

茶畑はあっさりうなずいた。 月の話はさておき、動画の好みは合いそうだ。

摩耶も、少し肩の力が抜けた。 メグの話が設定なのか、妄想なのかは分からない。ただ、事実とはとても思えなかった。 超自然科学部に誘うかは、もう少し話を聞いてから考えることになりそうだ。

「でも、今はこの辺りに住んでるんだよね?」 「そうよ。処女塚!」 「朝も言ってたね。古墳の近くってこと?」 「近くじゃなくて、処女塚古墳そのものよ」

そこは訂正するのか。 摩耶が返事に迷っている間に、坂本が口を挟んだ。

「月の次は古墳かあ。もう普通のマンションとかじゃ駄目なんだね」 「古墳のどこに住むの? まさかテント?」 「そんなものは使ってないわよ」 「だよね。雨の日とか大変そうだし」

茶畑が唐揚げをつまみながら呟いた。

「ていうか、古墳ってお墓でしょ? ウチ、夜に一人でいるのは無理かも」 「杏奈、古墳でもパワーもらえるかもよ?」 「確かに、最近はパワースポット特集に古墳も載ってるしね」 「え? そうなの? 昼に行くならありか……」

メグがにこりと笑う。

「処女塚古墳も凄いパワーを秘めてるのよ」 「その設定、いま思いついたでしょ?」

坂本が突っ込むと、茶畑と摩耶が笑う。 メグだけは、分からずにポカンとした顔をしていた。

メグは閉じていた弁当箱を袋にしまうと、改めて三人へ顔を向けた。

「みんなは、処女塚に行ったことある?」 「ウチは車で前通ったくらいかな」 「あたしも。特に行く理由もないしね」

坂本の答えに、茶畑がうなずく。

月の家については、結局何も分からなかった。 けれど、処女塚なら歴史を手がかりに、メグの話をもう少し確かめられそうだ。

「処女塚のこと、メグは詳しいんだ?」 「もちろん!」

メグは胸を張った。

「なんといっても、自宅ですから!」

まだその話は続いているらしい。 坂本が小さく笑い、茶畑は弁当箱を閉じながら尋ねた。

「そういえばさ。あの古墳って、そもそも誰のお墓なの?」

05:

「私のお墓と言われてるわね。本当は違うけど」 「え?どういうこと?」

茶畑の質問にメグが答える。摩耶は、その言葉を補うように続けた。

「菟原処女っていう、女の人のお墓っていわれているよ」 「うない、おとめ?」 「そう。昔、この辺りに住んでいた、すごく美しい女性」 「まさに、私のことね!」

メグが頬に手を添える。 坂本は、その顔を正面から見てから、摩耶へ向き直った。

「……否定しにくいのが、ちょっと悔しい」 「分かる」

二人の反応に、メグは満足そうに笑った。

茶畑がスマホで処女塚を検索すると、木々に囲まれた古墳の写真が出てきた。スマホを机の真ん中に置き、四人でのぞき込む。

「ここだよね。ウチ、何回も前を通ってる」 「うん。四世紀ごろに造られた、長さが七十メートルくらいある古墳なんだって」 「そんなに大きいんだ。下からだと、木のある公園って感じだけど」

坂本が写真を拡大する。 摩耶は、画面に現れた古墳の図を指した。

「それにこれ、前方後円墳じゃなくて、前方後方墳なんだよ」 「ぜんぽう、こうほう?」 「後ろが丸じゃなくて、四角いの」 「あ、本当だ。古墳って、全部あの鍵穴みたいな形なのかと思ってた」

坂本は指先で輪郭をなぞった。

毎日のように近くを通っていても、名前と形を確かめるだけで、知らなかったことが出てくる。摩耶には、その感覚が少し楽しかった。

「でも、その女の人のお墓って、どうして分かるの?」 「そこは、はっきり分かっているわけじゃなくてさ。そういう伝説が残っている、ってこと」 「じゃあ、実際は違う人のお墓かもしれないの?」 「うん。古墳時代にこの辺りを治めていた豪族の墓って考えられているみたい」

摩耶が答える横で、メグが小さくうなずいた。

「そうね。確かに乙女の話は伝説として残っているけど、全部が正しいわけじゃないわ」 「メグは、その伝説も知ってるんだ?」 「もちろん!」

待っていた質問だったらしい。 メグは机の上に両手を重ね、三人を見回した。

「悲しい恋のお話なんだけどね」 「恋愛の話?それなら聞きたい!」

茶畑が身を乗り出す。 坂本も弁当を片付けながら、メグへ顔を向けた。

「急に杏奈が元気になった」 「そりゃ恋バナだし。ウチら華の女子高生だよ?」 「最後まで聞いてから言った方がいいかもよ」

摩耶が言うと、茶畑は少しだけ眉を寄せた。

その様子に、メグが笑う。

「それじゃあ、まずは昔から語り継がれている方のお話ね。そのあとで、私の知っている話もしてあげる」 「同じ話じゃないの?」 「聞いてのお楽しみ!」

メグは人差し指を唇に添えた。

「では、菟原処女の物語、始まりです!」